バーテンダー★3杯目~今回飲んでみたかったカクテルはパスティス [相葉雅紀]
【キャスト】 佐々倉溜/相葉雅紀 来島美和/貫地谷しほり 来島泰三/津川雅彦 杉山 薫/荒川良々 三橋順次/光石研 桜 肇/尾美としのり 桜 寿/西慶子 葛原隆一/金子ノブアキ ゲスト★織田公彦 役/津田寛治
杉山の心の声。
【俺はラパンの中堅バーテンダー、杉山薫…見ての通り、この界隈で指折りのバーテンダーだ。だが最近の俺は今イチ、パッとしない。その原因は佐々倉溜】シェーカーを振る佐々倉をジッと見る。【何故かあの来島泰三に認められ、何故かあいつの周りに人が集まり、何故か美和さんにまで気に入られている】
グラスを磨く手に力が入り、バキッ!。
杉「失礼しました~!」と客に詫びを入れるが、佐々倉との会話に花が咲き、誰も気付いてなかった。
【って誰も気にしてねぇし…海外で活躍してたか何だか知らないがここはJapanだ! 犬も歩けば猫も歩く、じゃなくて、何だこういう時の諺…まぁ、何でもいいか】
溜「何でもいいんですか?」杉山ドキ!
溜「おつまみは、じゃあ、お任せでよろしいですね?」
マンゴーを切り始める佐々倉に、杉「マンゴーは切りにくいから僕がやろう」とチェンジしたものの、いきなり指を切り「あぅ!」
そんな杉山が三橋に、カクテルコンクールに参加したいと申し出る。
三「いいでしょ、頑張ってみなさい」と許可する。
三橋は店の代表とし参加する杉山のサポートを佐々倉に頼んだ。
溜「もちろんです」と引きうけた。
あの葛原の店、BAR「k」からも優秀なバーテンダーが出るという。
そこにお客さんが一人、入って来る。
「この後デートでテンション上げたくてね」と言う客に、
溜「では、デートがうまくいくカクテルを」
織「そんなのあるの?」
溜「はい」
織「実はその彼女と結婚したいと思ってて、今度店に連れて来るからよろしくね」
溜「そういう事でしたら喜んで」
◆美和の職場。
最近、彼氏の出来た編集長(五木)の噂話をしてる。
同僚に「来島ちゃん、気をつけな。男とダメになると企画100本ノックで新人イビるから」
五「そこ! 何コソコソやってんの!」と見つかる。
杉山は何やらカクテル作りの練習をしている。
そこに佐々倉が「お疲れ様です」と入って来る。
溜「課題はマティーニですか?」
杉「ああ」
溜「僕に手伝える事があったら何でも言って下さい」
杉山の手が止まった。「お先に失礼します」と帰ろうとした時、
杉「いいんだな、本当に何でも言っていいんだな」と攻寄る。
杉「お前がメロスで俺がセリヌンティウス。俺の為に走ってくれるな?」
美和の職場まで出向き、美和を呼び出す溜。
溜「あのさぁ、今好きな人いる?」と唐突に。
美「別にいないけど」
溜「良かったぁ」美和ちょっと嬉しそうな顔。
美「何で?」
溜「杉山さん、どうかなぁっと思って」
美「え? 杉山さん?」
溜「今コンクールに出場するために猛特訓しててさ、もしだよ、もし優勝したら美和さんと付き合って欲しいんだって」
美「いやいや、意味が分からない」
溜「今杉山さん、心の支えが必要なんだよ、だからさ」
美「だからって、そもそもそんな大事な事、何で佐々倉さんが言いに来るわけ?」
溜「何でって、頼まれたから」
美「へぇ~! じゃ、杉山さんに頼まれたら何でもするんだ。死ねって言われたら死ぬんだ」
溜「何小学生みたいな事言ってんの?」
美「小学生みたいなのはそっちでしょ! わざわざそんな事言いに来たワケ? バッカみたい!」美和を怒らせてしまった。
頭を抱える溜。
杉「来たか、メロスよ。で、美和さん何て?」
溜「それが…怒って帰っちゃいました」
美和が直接、自分から告白を聞きたがってると勝手に解釈をする杉山。
杉「俺はコンクールで必ず優勝して、直接美和さんに告白する」
溜「頑張ってください」
また今夜も織田が客で来ていた。
織「う~ん、美味しいねぇ」とカクテルを飲んでいた。
この店で彼女と待ち合わせをしたので「よろしくね」と。
溜「そうですか、今日もデートなんですね」
話の内容から織田は医者のようだ。
溜「じゃあ、織田先生ですね」
織「しがない勤務医だよ」
「こんばんは」とお客が。美和だった。
溜・杉山・美和「あっ!」
杉山に駆け寄る美和。
美和がどういう事なのか聞こうとしたら、杉山が一方的に半告白し、恥ずかしくなって肝心な事は何も言わず退散してしまった。
美「何? アレ」呆然。
溜「まぁ、どうぞ」
三橋「シーブリ-ズです」と美和に差し出す。(ウォッカベース)
美和は会社の編集長の愚痴を三橋に聞いてもらっている。
隣で聞いていた織田が、「なんか大変な上司についてるみたいですね」と声をかけてきた。
美「わかっていただけます?」その後も編集長の愚痴を言ってると、そこに女性の客が入って来た。
美「編集長!」
なんと織田の彼女というのは編集長だったのだ。
織「あなたの上司ってひょっとして?」妙な空気が漂う。
溜「僕からお二人の為に一杯プレゼントさせて下さい」と間を繕った。
2人の為に作ったカクテルは
カカオリキュールを注ぎ、生クリームを表面に軽くフロートし、刺したマラスキーノ・チェリーをグラスの飲み口に横に置いた。
溜「エンジェル・ティップです」
五「天使のティップ(チップ・心づけ)」
溜「日本では別の名前で呼ばれています。ご存知ですか? そのチェリーをピンの先にずらして、グラスに入れて引き上げてみてください」
織「おお、カクテルが動いてる」
溜「何の形に見えますか?」
美「もしかして唇?」
溜「そう、だから別名エンジェルキッス」
織「天使のくちづけかぁ」
五「エンジェルキッス」
三橋とアイコンタクトを取る佐々倉。
美「助かった!」
◆コンクール会場。
溜「杉山さん、リラックスして」落ち着きのない杉山に声をかけた。
杉「してるよぉ!」と大声で。
美和も来ていた。溜の出したカクテルがきっかけで編集長にコンクールの記事を書けと依頼されたという。
美「杉山さん、頑張って!」
そこに葛原の姿も。美和に挨拶し、
葛「優勝はウチの戸川がもらう」と佐々倉たちに。
溜「それはまだ分かりませんよ」
連れてきた戸川に鼻で笑われた杉山。
ラパンの杉山とKの戸川が並んで審査を受けた。
テクニカル的は両者、順調に。
杉山のカクテルは三橋仕込だ。
戸川の様子を見る葛原の眼差しが怖い。
美「完璧だね、杉山さん」
溜「どうかな」
予選通過には通った杉山。もちろん戸川も通過。
「優勝狙います…」のような会話をしながら帰宅する3人に、
葛「アンタには優勝できないよ」と水を差す一言。
溜「失礼なこと言わないで下さい」
葛「じゃあ、お前はあのマティーニで優勝できると思うのか? …あんたのマティーニには顔がない」と言い残し去っていった。
マティーニに顔がない……。その事を考えてる。
美「佐々倉さんは分かるの?
杉「分かるのか? だったら聞いてやる」
溜「いや、僕にもわかりません」
「開店までには戻る」と去る杉山。
「教えてあげればいいじゃない」と美和に攻められるが黙り込む溜。
加瀬との昔の会話を思い出す。
同じような『マティーニの顔』についてだった。
杉山は店でグラスを落とすミスをする。
グラスを割ってしまったのだ。
そして三橋に帰るように言われた。
肩を落とし帰る杉山の後姿を心配そうに見送る佐々倉。、
そこに編集長が1人で店にやって来た。
今日も織田と待ち合わせらしい。
五木の特集記事の話をする佐々倉。
『今買うべき一生モノ特集』
五「結婚も一生モノだよね」とポツリ。結婚を語る編集長。
溜「誰かを想う気持ちに年齢なんて関係ありません」と返す。
そこに織田がやって来る。
織「一生モノかぁ、僕の一生モノはこの時計だな」
溜「良い時計ですね」
織「戦死した祖父の唯一の形見なんだよ。祖父は軍医だったんだけど僕はその影響で医者を志したんだ。だからこの時計は僕にとって思い入れの深い物なんだよ」
佐々倉、何故か浮かない表情。
美「結婚ですか?」
編集長からプロポーズを受けた話を聞く。
結婚したら仕事を辞めるという。
五「しっかりね、嫁に行くまでに私を安心させてよ」
葛原の取材に向った美和。
Kの店の前で杉山を見かける。
葛原本人に、「マティーニに顔がない」という意味を聞きに来たのだった。
葛「プライドの無い奴を、俺はバーテンダーとして認めない」
美「杉山さん?」
葛「もう帰ってくれ」
美「まず、マティーニを作って頂けませんか? 私と杉山さんにも」と注文した。マティーニの作り方を記事にするという理由で。
葛「いいでしょ、(杉山に向かって)どんなコンクールにも勝てるグラスを作ってやる」
目の前でマティーニを作る葛原「どうぞ」
美「美味しい」
杉「確かに美味しい、でもこれのどこが…」
葛「そんな事も分からない奴を雇ってるとは、ラパンも大した事はないな」
「レモンですよ」佐々倉がそこに居た。美和に呼ばれたようだ。
溜「普通ならマティーニは仕上げにレモンの皮を指先で絞り、香りだけをグラスの周りに漂わせる。でも、敢えてレモンの皮を吸盤の形に削ぎグラスの底にとどめ、かすかな苦みを生かすというのもひとつのスタイルです。レモンの風味が緩やかにグラスに溶けだし、飲む度に味わいが変わる。このマティーニは一杯で様々な変化を楽しむ事が出来るんです」
杉「そんな事、三橋さんは…」
葛「師匠のマネで一流になれる程、この世界は甘くない」
葛「取材を始めましょう」
美「はい」
溜「杉山さん、帰りましょう」
頭を下げ帰る溜。
バッティングセンターでモヤモヤを晴らしてる杉山。佐々倉もお供している。
杉「お前も打て、お前が打てたら帰ってやる」
溜は一発で打ってしまった。
杉「何で打つんだよ」
溜「打ったら帰るって」
杉「俺、コンテスト出るのやめる。俺が散々な成績だったら店の看板に泥を塗る事になる」戦意喪失した杉山「もうどうしていいか分からないんだよ」
ラパンに出勤する佐々倉。
杉山が休ませてくれと連絡してきたらしい。
三橋に詫びる。
三「どんなに苦しくても杉山自身が見つけなきゃいけないものがあります。バーテンダーとして」
「まだ早かったかな」織田がやって来た。
溜「今日も五木さんと待ち合わせですか?」
レイトショーで彼女の好きな「風と共に去りぬ」を見るという。
織「今日は、テキーラストレートでもらおうかな」
佐々倉が棚から出してきたのはプレミアムテキーラ、ドン・フリオ1942。
織田が蓋に巻いてあるラップは何かと聞いた。
溜「これはパラフィルムと言って伸縮性のあるテープです、鮮度を保つために使うんです」
織「便利なものがあるんだねぇ」と感心する。
佐々倉は織田の顔を見た。
やがて彼女も来て、そして帰っていった。
ふと、扉の方をじっと見つめる佐々倉。
溜は何かを考えていた。
さくら食堂で美和と食事。
美「どうかした?」
肇「いつもの食いっぷりはどうした?」桜夫妻に心配される。
2人は少なくても友達以上、恋人未満なんだろと聞かれ、
溜「タダの友達です」とキッパリ。
美和も「当たり前でしょ!」
編集長の事を聞き出す溜。
織田さんとの結婚にまっしぐらだと聞き黙り込む。
溜「今日は俺が奢るよ」といきなり。
美「本当?」
溜「300円まで」
美「ケチ!」
ラパンで掃除をしてる杉山。ポケットからなにやら封筒を出し眺めている。
「杉山さん」その後姿に声をかける佐々倉。
慌てて封筒を内ポケットにしまう。
美和は佐々倉が編集長の事を聞いてきたのが妙に引っかかる。
織田は今日、五木のプロポーズの返事をもらう日なのだと。
溜「景気付けに僕から一杯ご馳走させて下さい」
織「嬉しいね」
溜「先生のイメージに合わせた一杯を差し上げます」
織「これは?」
溜「パスティスというリキュールです、語源はフランス語でパスティーシュ。意味は模倣する」スッと差し出す。
織「つまり真似、偽物って事か?」
溜「お客様と同じですね」
織「何言ってんの? 佐々倉君」
溜「先生のその腕時計、本当に戦死したお祖父さんの物であれば、クォーツであるわけがありません。クォーツ腕時計が出来たのは昭和44年ですから」
織「へぇ~佐々倉君、時計にも詳しいんだ」
溜「カウンターの上のお客様の手に目が行くのは職業病みたいなものです。クォーツ式と機械式とでは、秒針の動き方が違う」
織「そっか、じゃあ婆ちゃんに騙されちゃったかな」
溜「僕も初めはそうかと思いましたが・・・」
棚からドン・フリオ1942を出してきて「これで確信しました」と。「あなたが本当のお医者様なら、医療の現場でも頻繁に使われるパラフィルムを知らないはずがない」
織「他の医者の客から聞いたの?」
溜「医者でパラフィルムを知らないのは、ダーテンダーでシェーカーを知らないようなものだと。バーのカウンターは舞台です。多少の嘘なら許されます。醜い三つの真実より、一つの綺麗な嘘と言う位ですから」
織「ラブレーか・・・時計、フィルム、じゃあ三つ目は?」
溜「秘密の話・・・バーの悪口と秘密の話は、店から10メートル以上離れてからした方がいい」
(帰り際入口付近でしていた話を溜に聞かれていたのだ)
溜「お医者さまで無いあなたに開業資金なんて必要ないですよね。つまりあなたは詐欺師です」
織「証拠は何もないよね?」
溜「バーテンダーがカウンターの上でお客様にサービスしているものが何かわかりますか?」
織「酒だろ?」
溜「違います。魂の癒しです」
織「クククッ、随分大袈裟だな」
溜「では僕にもう一杯何かご馳走させて下さい」
織「毒でも盛られるのかな?」
溜「いえ、マティーニを一杯」
溜「マティーニが何故、キングオブカクテルと言われているかご存知ですか?」
織「さぁ?」
溜「マティーニはジンとデルモットで作ります。基本はこの二つを混ぜ合わせるだけです。でもそのバランスやレモンのアレンジの仕方によってマティーニのバリエーションは無限にあると言われています」と織田の前でマティーニを作っていく。
織「無限だなんてまた、大袈裟だな」
三橋「大袈裟ではありません、無限の中から自分のマティーニを生み出すため、バーテンダーは誰もが悩みます」
溜「だからこそマティーニにはバーテンダーの個性が出るんです。元々ジンはビールよりも安く、アルコール度の強い労働者がただ酔う為だけのお酒でした。でもこのジンがベルモットと出会うとパーティには欠かせない上品なレディに変身する」
織「ヘップバーンのマイ・フェア・レディってわけか」
溜「その変身に世界中のバーテンダーや酒好きが魅了されるのかも知れません。だからバーテンダーが、このカクテルをどう輝かせたいかはっきりしない時、こう言います。このカクテルには顔がない、と」
五木をイメージしたカクテルを織田に差し出す。
「なりふり構わず仕事をしてきて、ある時自分を輝かせてくれる男性と出会った。全てを捨てて、その人を信じてついて行こうとしているそんな女性。あなたも誰かを心から本気で信じたいと思った事があったはずです。そして想いを裏切られた事も」
織「何でそんな事が分かるんだよ」
溜「あなたは時々寂しい目をする」
織「バーテンダーはエスパーか?」
溜「ある意味そうかもしれません」
織「女なんてみんな肩書に惑わされる、医者だ、弁護士だって言えばすぐ騙されてやがる。そこに並んでる酒だって、ラベル剥がして味だけで価値が分かるやつがどの位いると思う」
溜「確かに、お酒の効果なラベルや素晴らしい肩書に、誰もが惹かれるのかも知れません。でも心に染みる一杯は値段なんか関係ない。安くても自分が美味いと思う酒が最高の酒ですよ。貧しくても自分が幸せだと思える人生が最高の人生です・・・彼女を傷つける事なく身を引いてください。プロの嘘つきであるあなたになら、出来るはずです。このバーカウンターはバーテンダーにとって特別なものです。ですから、ここを醜い嘘では無く、美しい嘘で飾って頂きたいんです」
美和がラパンにやって来た
美「さっき、どうして編集長の事聞いたの?」
溜「あれは・・・あれ? 何だっけ?」ととぼける。
そこに「こんばんは」と五木が来た。
美「デートじゃ?」
五「さっき別れた」
佐々倉、三橋と目を合わす。
「開業資金に使って」とお金を差し出した五木に織田は、
「これは必要なくなった。アフリカに渡って無医村で働く事に決めたんだ」一緒に着いていくとまで行った五木に、
織田は「君にはずっと仕事をしていて欲しいんだ、仕事の話をしている君は一番素敵だから」と。
溜「ホントは少しホッとしてるんじゃないですか?」
五木は仕事を抜け出してデートを重ねていて、織田が席を外した時、佐々倉に自分の酒のアルコール量を加減して欲しいと頼んでいたのだ。
「五木さんの新し恋の為に」とシェーカーを振る。
溜「スカーレットオハラというカクテルです」
美「風と共に去りぬの主人公?」
溜「彼女と同じ、凛々しく情熱的な五木さんの為に」
五「ありがとう。明日は明日の風が吹くか」
杉「すいません。今日上がらせて頂きますか」
ひっそり帰って行った杉山。
待ち合わせ場所に杉山が来ない。
溜「どうしちゃったんだろ、杉山さん」
美和は取材の準備があると先に行く。
葛「ラパンのバーテンダーは棄権かな?」
溜「ちょっと遅れてるだけです」
退職願を忍ばせていた杉山の姿を思い出し不安に。
が、そこに杉山が現れる。
溜「良かった、間に合って」
杉山は何かを感じとったようで、自分のマティーニを作ると。
結局は葛原の店のバーテンダーが優勝したようだ。
杉山の作ったのは桜の花びらを浮かべたサクラマティーニ。
正統派ではないが受けていたようだ。
調子に乗って美和に告白し始める杉山。
美和と佐々倉はさっさと歩いてお祝いの話なんかしている。
気がつくと誰もいない。
「佐々倉!」と杉山が追いかける。
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